UFO手帖6.0刊行されました! その感想と紹介 その1

UFO手帖6.0が先日の文学フリマ東京にて刊行されました。

UFO手帖6.0は"満を持して"ジョン・A・キールの特集号、なのですが、
執筆陣の情熱がガンガンに籠っている一冊となっており、読み応えも尋常でないレベルとなっております。
よくよく噛みしめながら、感想と紹介を綴ってまいります。

■特集:ジョン・キールとトロイの木馬作戦

表紙に記されているように、今回の特集タイトルは「ジョン・キールとトロイの木馬作戦」です。
もちろんジョン・A・キールの著書『OPERATION TROJAN HORSE』から来ているのですが、邦題は『UFO超地球人説』でした。だが原題直訳の「トロイの木馬作戦」の方がカッコイイ!

システム屋にとっては「トロイの木馬」とは不穏な単語ですが、一般的には「他の事物に偽装して破壊工作を行うもの」の意味があります。
さて、誰が、何の目的で、どのような偽装を行っているのでしょうか。
いや、そもそもジョン・A・キールとはいかなる人物でしょうか。
UFO、超常現象好きなら誰もが耳にしたことのあるこの風雲児に、キールファンをもってなる編集長とSpファイル友の会の面々が切り込みます!

・ウルトラテレストリアルシックス

UTです。YMOの名曲「U.T」はここから来たのです。
MIB、フラットウッズモンスター、モスマン……。子供のころに触れ、UFOに興味を持つようになったきっかけがここに集結しています。
また、このイラスト(by窪田まみさん)が素晴らしい!
キールを囲むウルトラテレストリアルシックスとプラスアルファたち。溢れるロマンと諧謔と一抹の寂しさ。絶品です。
特集と合わせて、ぜひ表紙と裏表紙もじっくりご覧になっていただきたい。

・『UFO超地球人説』読書メモ by花田英次郎さん

キールが初めてUFOをテーマに書いた『UFO超地球人説』(=トロイの木馬作戦)。
今やヤフオクで高値がつき、なかなか目にすることのできない『UFO超地球人説』ですが、その内容だけでなく、解説まであってたいへん嬉しい必読の一本です。

UFOは水曜日に出現する?特定の州に集中して現れる?つまりUFOは人間の「曜日」「行政管区」を知っているということになる。奴らは遠く離れた惑星ではなく、我々の近くにいるのだ!
奴らは意図的に人類をミスリードしようとしているのだ。目撃される搭乗者がたいてい何らかの機械を修理しているのは、「UFOが宇宙人の乗り物だ」と認識させるための偽装工作なのだ……。
では、その工作を行っている者はだれなのか?
それをキールは「超地球人」と呼んだ……。

歴史的にUFO事件を俯瞰したり宗教的奇跡にまで言及したかと思えば、次にはUFO問題に首を突っ込んだ者たちに襲いかかる悲劇について語られます。
実に縦横無尽な内容の『UFO超地球人説』ですが、やはり一度は実物に目を通してみたいものです。国立国会図書館にはあるようだ……。

ちなみに、『UFO手帖6.0』販売開始日の文学フリマが催された日、この感想をまさに書き始めたその時、私の家の固定電話が壊れました。キール名物「よく壊れる電話」だ!


・白のクイーンとピンクのユニコーン――超地球人説の背景――  by馬場秀和さん

UFO超地球人説はネガティブな反応を受けているようです。「独自の」とか「自分でも信じてない」などと謗られ、『プロフェシー』に至っては映画のパンフレットや翻訳者によるあとがきといった、通常はネガティブなことを書かない場所でも「とんでもない」「異端」と書かれる始末。
では、UFO超地球人説はどこがどう馬鹿げているのか?この問題を大真面目に考察する一本です。

UFO超地球人説を、

・背景となるオカルト観(UFOは他の超常現象全体の一部)
・キールが独自に追加した部分(UFOは地球外起源ではなく地球上の存在(超地球的存在)のしわざによるものである)

の2パートに分解し、鏡の国のアリスの登場人物である白のクイーンとピンクのユニコーンのワードを用いて極めてロジカルに分析が行われていきます。
さらに「自然科学的オカルト観」「オフタイム問題」「文化追随問題」「人文科学的オカルト観」「実証主義と解釈主義」と、超常現象を研究するうえでの"とらえにくさ"と、そのとらえにくさへのアプローチのための概念が用いられ、その上でUFO超地球人説の「馬鹿げている」部分を明確化していく様は酩酊感にも似た興奮を覚えます。

そして、その「馬鹿げている」と捉えられてしまう原因から浮かび上がる「超地球人」の正体とは……。

・SFの歴史から見たUFO超地球人説 by磯部剛喜さん

UFO超地球人説は奇現象博物誌の側面を持ち、それはチャールズ・フォートの系譜に連なるものである。
チャールズ・フォートが現代SFに大きな影響をもたらしていることから、いわば”きょうだい関係”にあるUFO超地球人説はSFの流れを受けているのではないか――。
UFO超地球人説の源流をSF史に追い求める論稿です。

エドモンド・ハミルトンは当時の最先端科学を取り入れていたのは知っていたけど、フォートの影響も受けていたとは知らなかった。
そういえばエドモンド・ハミルトンの短編には不気味な感じのするものもあったなあ。
そして語られるUFO超地球人説の持つ「影」とは……。

・今そこにあるキール的事例 byものぐさ太郎αさん

『UFO超地球人説』に登場する未確認航空機のいくつかは実在航空機だった可能性を探ります。
三角翼機って新しい機体の様に思っていたけど、結構歴史があるのだった。
ロケットベルトや最近ロサンゼルス上空で目撃されているロケット男、果ては2020年に仙台上空で目撃された気球のような物体もキールが紹介した事例に連なるという。
成層圏プラットフォーム、つきまといUAV(ドローン)、そして開発がうわさされる中国製円盤型UAV……実に興味深い話が満載です。

・いつかわかる話 キール(Kiehle)とキール(Keel)のいくつかの冒険 by秋月朗芳さん

特集のトリを飾るのは、もちろん編集長 秋月朗芳さんです。
少年キール(Kiehle.本名)がいかにしてキール(Keel.筆名)となったか、そしてライターとなったキールはどのような人生を送っていったのか、が軽妙に、情感を乗せて描かれます。
とりわけ少年期の唯一の友犬ティピーのくだりは胸に迫るものがありました。
新進気鋭のライターとしての躍進、従軍、UFOとの出会い、『UFO超地球人説』『プロフェシー』など数々の著作の刊行、そしてUFOブームが去り……。
最後の、老人ホームでの若者とのやり取りがタイトルにもつながっていくのですが、一人の男が徒手空拳で世界に戦いを挑んだ青春小説の様でもあります。
UFO好き、超常現象好きには、いや、そうでない向きにも掛け値なしにお勧めです。

・BIBLIOGRAPHY-JAK by有江富夫さん

これはすごいです。キールに関する刊行物について、キールの著作はもちろん、キールについて書かれた物まで、単行本、雑誌を問わず網羅されています。
キールについての言及に関しては要約まで記述されていて、UFO、超常現象界隈でのキール扱われ方がわかる、"読んで面白い"リストです。

・ミニキール。
誌面の隙間に現れるキールがらみの小ネタ集。こういうスキマにこそキールの真髄が隠れているのかもしれません。
とりわけ、機械が「私たちは悪いものじゃないんです」と語りかけてくる話は最高です。


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私がジョン・A・キールの名前(と顔)を知ったのは『黒衣伝説』(朝松健著)でした。この本は「失踪中の友人(オカルトライター)が残した未発表の原稿を、著者が注釈を入れつつ公開する」
という体をとったオカルトミステリーですが、キールの話題が頻繁に出てきます。
中でも、UFO、MIBやその他の超常現象に関わった人たちが、悪意があるかのような偶然の一致に連続的に見舞われ、精神を病んだり、命を失ってしまったりする中で、
一人キールは冷徹な分析により「超地球人説」を打ち出し、数冊の研究書を上梓することで心身の安定を保った、という一節が印象に残っていました。
しかし、今号のキール特集を読むと、(冷徹な分析の他に)『プロフェシー』にあるように「女の尻でも追っかける」的な意識のずらしもあったのではないかと考えています。
それが故の"悪ふざけ"的に見える言説につながっていったのかもしれません。