「20世紀雑誌メディアとオカルティズム」その2 「魔女っ子」たちの社会学―雑誌『マイバースデイ』の分析から


II.「魔女っ子」たちの社会学―雑誌『マイバースデイ』の分析から
橋迫瑞穂 講師

続きまして橋迫先生によるご講演。
雑誌『マイバースデイ』の分析から見える、少女たちと「占い/おまじない」の関わり、雑誌が打ち出す姿勢、それらの変遷といったたいへんに興味深い内容でした。
今年中に本が出る(かも)とのお話だったので、こちらにも期待大です。

以下、拙いながらまとめです。

一.はじめに
1980年代後半、小学生女子の間で流行していた「占い/おまじない」。
いかにも小学生的な占い(相手と自分の名前を使った相性占い)やおまじない(相手の名前をリップクリームに書き、消えるまで使う)といったものが教室内で普通に見られていたのだが、これはとても奇妙なことではないか。(*1)
生活の場において、超越的存在におうかがいをたて、護符を作って儀式的行為に及ぶということは、彼女たちは「小さな魔女」として振る舞っていたともいえるのではないだろうか。

・少女たちは何故「占い/おまじない」を行っていたのか
・少女たちにとって「占い/おまじない」はどのような意味、価値を持っていたのか
・「占い/おまじない」はどのように広まっていったのか
これらを少女向け占い雑誌『マイバースデイ』を資料として検討する。

雑誌『マイバースデイ』:1979年創刊(『ムー』創刊と同年)。実業之日本社より。全盛期には4万人の読者を抱えていたとされる。
以下の特徴を持つ。
・占い師が執筆
・幅広く、専門的な内容(西洋/東洋占星術、タロット、バカラ、護符など)(*2)
・ファッションや美容などライフスタイルにかかわる記事も掲載(「リア充雑誌」としての側面)

『マイバースデイ』の資料的特徴
・広く普及した雑誌であるため、担い手である少女たち及び「占い/おまじない」そのものの具体像が検討できる。
・少女たちが「占い/おまじない」を選択し日常に取り入れる過程と、それを雑誌を通じて共有するという相互性の検討ができる。

二.先行研究
島薗進によると「占い/おまじない」ブームは70年代からの「宗教ブーム」の構成要素の一つとされる。
その要素の一つである、
「呪術=宗教的大衆文化」:コミックやゲームなど大衆文化で呪術=宗教的なものが取り上げられる
に『マイバースデイ』は適合する。

芳賀・弓山による以下の分析
若者文化としての占い:「重い」人間関係を回避しようとする「認識のための『地図』」
おまじない:失敗に対する予防策(占いとの組み合わせ)

大塚英志による「少女民俗学」
「おまじないグッズ」は消費財であっただけでなく「アニミズム」的なモノでもあった。それが「現実とは別の物語の世界」をもたらした

これら先行研究においては
「『占い・おまじないグッズ』=少女が複雑な人間関係を回避し、独自の『世界』に閉じこもるために、情報化社会がもたらした『消費財』/流動的、流行としての性格」
が強調されてきた。

三.80年代『マイバースデイ』の概要と変遷
1.概要
対象:1979年(創刊号)から2006年12月(休刊号)の『マイバースデイ』
分冊としての以下雑誌も含む
・『プチ・バースデイ』:低年齢層向け
・『MISTY』:プロの占い師を目指す
・『Monique』:より年齢の高い層向け(「恋」という単語の代わりに「不倫」という語が使われるイメージ)
・『おまじないコミック』

2.80年代の特徴
・ライフスタイルに関する記事の充実度が高い
 中でもDIY系の異様なまでの充実感。お菓子、服をはじめとして家具なども対象とする。
 進路に関する記事もあるが、これは占いとは別に「まじめな」進路の考え方についての記事。
・占い/おまじないに関する記事
 毎日の運勢は普通として、「ホロスコープの作り方」記事は海外の専門家まで動員して書かれたものであるとのこと。後にも復刊要望があったらしい。
 占い師のコラムがあり、主な記事の執筆は人気占い師が行うようになる。
①ルネ・ヴァンダール・ワタナベ(*3)
 79年12月号より。魔女の儀式を模した「おまじない」を紹介。かなり複雑な儀式もあったとのお話(*4)。
 明確な目的を持ったものばかりでなく「自分を鍛える(霊力を高めるなど)」鍛錬系、瞑想系の儀式も多かった。
 「白魔女」としての理想像(「周囲を和ませ幸運の予感を与える」)を提示し、「魔女っこ」に理想に至るための「努力」「根性」を設定した。
②マーク・矢崎治信
 「マークの『魔女入門』」のコーナー。読者の悩みに応える形式。
 オカルト的な手法だけでなく、問題に向き合う姿勢も強調する。「大切なのはお守りではなく『努力』」。
③エミール・シェラザード
 妖精を呼び出す「おまじない」紹介で人気。
 人形やお菓子に「おまじない」をかけてプレゼントをする(=相手との向き合いが必要)ことを推奨。
④読者
 会員制度「MBメイト」あり。
 読者投稿欄:投稿に対し編集部がコメントするスタイル(有名コメンターの存在)。
 読者が創作した「占い/おまじない」を他の読者が実行、結果報告という共有化。効果のある「占い/おまじない」ベスト30や、書籍化への発展。
 
3.1980年代「占い/おまじない」と少女文化
・「白魔女」の理想像とそれに向けての努力の重要性を提示。誌面はそれを示す教師的な役割(担い手は占い師)
・理想像とそのための努力は「かわいい」モノと結びつき、学校生活に入り込む(=神秘性(「占い/おまじない」)と少女文化の融合)

誌面上で「宗教的空間」を創出するだけでなく、学校生活を「努力」の実践の場に書き換えた。

80年代の「占い/おまじない」の特徴として以下の点が挙げられる。
儀式的要素や神秘性の強調はされるものの、それらは、傷つくことを厭わず能動的、積極的に他者に働きかけるための基盤として設定されている。
この点(現実の人間関係への働きかけ)は、先行研究からの逸脱が見られる。
読者は、雑誌の持つこのような教師的側面からの一方的な受容ではなく、雑誌を中心に世界観を共有していた。

四.90年代『マイバースデイ』に見られる変化
・コミュニケーションマニュアルの充実化
 異性の視線を意識した記事の増加(80年代には清潔感を持った見た目にするには、程度の記事でしかなかった)
 リア充雑誌的傾向の増大。
・「テスト」「データ」と名づけられた占いの増加
 テスト:状況把握を目的とする
     自分自身を調べるテスト、人間関係を把握するテストなど
     チャートや選択肢を道具とする
 データ:(例)星座をベースに、自分×相手×シチュエーションのマトリクス。100位までのランキングが見開きで掲載されるなど

・学校生活とは無関係の「占い/おまじない」の増加
 風水、パワーストーンなどの記事:中高生だけではない年齢層にも読まれるものになっている
 80年代にあった複雑な「占い/おまじない」は姿を消す

効率よく心地よい人間関係を築くための「占い/おまじない」という位置づけとなった。
「占い/おまじない」の「ケータイ化」。(*5)
「少女文化」からの分離であり、また「占い/おまじない」が神秘性を失っている(=宗教的空間の喪失)。
その代わり、幅広い世代に向けた「スピリチュアル」をテーマにした記事が増える→2000年代スピリチュアルブームへ

五.まとめ
・80年代『マイバースデイ』の「占い/おまじない」は理想像とそのための努力の提示:現実に正面から向き合い乗り越える努力を促す手だてであった
・ただ、ここで提示される成長の方向性は以下2つの特徴を持つ
①伝統的「少女らしさ」の範囲内であること(逸脱ではなく強化)
②学校規範の強化

・90年代『マイバースデイ』では「占い/おまじない」は人間関係を把握し効率よく好感を得るためのものに変化した
・学校規範はさらに強化され動かしがたい、逸脱することのできないものとなった
 現代のケータイ、スマホによるコミュニケーションの逐次把握は、「占い/おまじない」によって先取的に行われていた
・読者層は中高生に限られなくなり、広がりを見せた

六.質疑応答
・『マイバースデイ』の売れ行き
 少し富裕である層の子が購入し、貸し借りで読んでいた。
 全プレ(応募者全員にプレゼント)が付く号は多く売れた。
・80年代にはやったDIY
 バレンタインデー特集に顕著だった。
 自分の好感度を上げるおまじまい→相手の好感度を測る占い→想いを伝えるためのDIYの手法→成功した場合、次のステップに進むためのおまじない
→失敗した場合、自分を落ち込みから救うおまじない
 という流れが構築されていた。
・周囲でよく見られたおまじない
 質問者周辺では恋愛成就のおまじないが多かった。
 編集部によるカウントでは、
 ①友情関係
 ②教師、先輩と上手く付き合う
 ③恋愛成就
 の順であったとのこと。(*6)
・編集部と読者間で意識のズレはあったのだろうか。主に教育的配慮に関して
 編集部は「占い/おまじない」と教育的配慮を一体としていた。
 例)「コックリさんはやってはいけません」と繰り返し記述。その理由は「学校規律を乱してはならないから」であった
・90年代に入り方向性が変わった理由
 他雑誌との競合も原因。より強い「リア充」志向を持つ雑誌が台頭してきた。
・「自己啓発」の流行よりも『マイバースデイ』はずいぶん先行していたのではないか
 自己啓発系は主に男性向け。しかもセミナーなど外に出向くものが多い。女性は以前より日常の中で自己啓発を行いながら日常から離れ、そして日常に戻る(または戻らない)という状況に身を置いてきたのではないか。

まとめ者所管(蛇足)


(*1)名前を使った相性占い
氏名の、五十音の「段」を数値化する(あ段は1、い段は2)もののようだ。例)「山田太郎」なら111153
桁数が大きくなるので電卓が必要というものらしい。

(*2)専門的な内容
マイバースデイは「オーラ視」のような一般的な大人なら知らないようなものまでを扱っていたという。
また、そういった「まじない」的行為に及ぼうとすると必ず母親がやって来て叱られるというお話もあった。
母親の、娘に対する察知能力は他でも耳にすることが多いので、これはこれで興味深い問題だと思う。

(*3)ルネ・ヴァンダール・ワタナベ
占いについてあまり詳しくない私でも知っている。
反射的に敬称「先生」をつけてしまいたくなるという気持ちも理解できる。

(*4)複雑な儀式
○○の時間帯にグラスに注いだワインを飲みほす、というものもあったとか。

(*5)「占い/おまじない」の「ケータイ化」
今ならアプリ化というところだろうか。
講演でも言及されていたが、学校生活に対してナイーブになっている感じが強い(怯えていると言ってもよいほど)。

(*6)おまじないで一番多いのが友人関係
そういうものだろうかと妻に問うと、そういうものであるとの回答だった。
解説によると、ここで成就を目指すのは「○○と友人になりたい」という願いではなく、「○○の一番の友人に私はなりたい」という願いであるとのこと。
なるほど、それなら呪術の出番ではあるだろう。
女子の友人関係とは難しいものだと思ったが、「男子では本当に違うのだろうか」と問われ、不安に思うことになる。そういったものを意識しないのは少数派だったりするのかもしれない。