飛頭蛮という妖怪がいる。「三才図会」に記述があり、胴体から首が抜け出て、その首は空を飛び回るという。
日本ではろくろ首という名で呼ばれるものと似通っているが、ろくろ首には首が伸びるもの(抜け出ない)ケースがあるようだ。
というか、胴体から長い首が伸びている形の方が一般的なろくろ首のイメージだろう。
それにしても何故「ろくろ」なのか。諸説載っているがwikipediaでは「陶器を作る際の感触」から、という記述もあって何か気持ちが悪い。
触感的なものが名前の元になっている妖怪ってあまりいないような気がする。べとべとさんは音のイメージ(だと思う)だし。
飛頭蛮やろくろ首の正体(?)については、離魂病という説がある。
現代でいう夢遊病を指す場合もあるが、過去には幽体離脱のことを指していたらしい。
夢うつつの状態で体から意識が抜け出て、あたりを飛び回るという感覚が飛頭蛮を生み出したという説である。
そう言えば、自分の舌が伸び、しかもその先に眼がついていて、家の外の様子が見える、という描写が「帝都物語」にあった様に記憶している。
眼や舌は感覚器官の象徴で、感覚だけが体から離れてしまう現象を表しているのだろう。
舌が伸びるというと、仙道には舌を剣に変えて攻撃してくる剣仙というのが出てくるが(しかも軍艦を攻撃してくるスケール感)、これはまた別のお話。
これは飛頭蛮を内側、つまり飛頭蛮の側から解釈したケースだが、外側、目撃者サイドからのアプローチはないだろうか。飛頭蛮、ろくろ首そのものの目撃譚は江戸時代あたりが最新なのではないだろうか。
もっと近代ではないのだろうか。
一つ思いつくのは、人魂のケースである。
人魂の中に顔がある、という目撃譚は現代でも聞かれるようである。
これは、「顔の後ろに尾のようなものを引いて飛ぶモノ」という点で飛頭蛮と共通するのではないだろうか。
人は首だけが体から抜け出る感覚を覚え、そして人の首のようなものが空を飛んでいるところを見てしまう生き物であるらしい。
だが、と、思う。
こういった現象はアジア圏だけでしか報告されていないものだろうか。
西洋版人魂とでも言うべきウィル・オ・ウィスプの中に人の顔を見た、とかそんなケースはないのか。
チリにはチョンチョンという飛び回る首の妖怪がいるそうだが、胴体から抜け出るというモノではないようだ。
あと、耳をはばたかせて飛ぶというダンボ式飛行術である点は可愛いと言うべきだろうか。
なんで突然こんな話をしているかというと、
夜道で歩きスマホしている人が顔だけぼうっと浮かび上がらせているのが飛頭蛮に見えたからなのだが。


