東京国立博物館 マジカル・アジア 「不思議なマネーを探す旅」その1
瞳孔が開いた目でやって参りました。
マジカル・アジア「不思議なマネーを探す旅」。
3連休前の金曜日とはいえ平日の夕方、どれくらいの人数が参加するのだろうと思っていたが、いや、前回参加した日曜日の午後とあまり変わらない人数ではあるまいか。
人気があるなあ、マジカル・アジア。
まずは5室からスタート。中国の明器(墓に入れる、死者の生活を支える家財の模型)のコーナーから。
羊磚(ようせん)。墓所の壁にはめ込まれていたレンガ(磚)なのだが、墓所の内側に顔を向ける形で、羊がかたどられている。
どこか可愛らしい顔だちなのだが、よく見ると目や鼻孔が硬貨(銭)の形になっている。さらに見ると角のあたりにも銭マークがおされている。
このような動物型の磚は他にも鹿型のものが見つかっているそうだが、そちらは目鼻とも銭にはなっていないそうである。
だが、これは羊だから目が銭なのではないだろうか。
猫の瞳は縦に細長くなる形状をしているが、羊の瞳は横に細長く、長方形に見えるのだ。
丸い目の中に四角い瞳、ということで銭貨を連想したのではあるまいかと勝手に想像する私。
次に銭貨の鋳型を見る。
金属の鋳型は凹版の鋳型、つまりこれに溶けた金属を流し込めば、普通の硬貨ができる。
土製の鋳型は凸版、これは上の金属の鋳型を量産するためのもの。鋳型の鋳型、というわけだ。
次の熨斗(うっと)が今回のツアーの白眉。
熨斗とは昔のアイロンであるそうな。日本では火熨斗(ひのし)と呼ばれる。
熨斗の底面に銭貨の型が鋳出されており、中心に一枚、それを取り囲むように七枚の型がある。
少しでも金の気を服に付けたい、という願いにしては、各々の銭貨型が溝でつながっており、鋳型としての機能がハンパなく実装されている。
まあ、つまり、ご家庭で貨幣鋳造が行われていたのではないか、というもの。
ただ、当時はこれが即、偽ガネ作り(=違法行為)というわけではないらしいのだが、どちらにしても声高に吹聴することではない。
というわけで、学芸員さんは「奥様のへそくりアイロン」という名称で呼ばれていた。
ちなみにこの熨斗、柄の部分が通常より随分短く、「切った部分は銭貨の材料になった可能性もある」とのこと。
「日入千金」の文字が入った銭貨型アクセサリ。
ペンダントヘッドだろうか。実際の銭貨と異なるのは文字だけでなく、真ん中の四角い穴が文字に対して45度斜めになっている。
こちらの方がデザイン性が高いような気がする。
内側にびっしりと銭貨の跡が付いた鍋状の容器「ふく」。
かなり大きいが、これが銭貨でいっぱいだったのか。現在だとどれほどの価値になるのか。
説明文では死後に使うためのお金、または、土に埋めて隠しておいたお金の二通りが考えられるとのこと。
学芸員さんのお話では、お墓を立てるにはまず土地を買わねばならない。土地は土地神様から購入する。
また、当時の中国では死後も職に就き、勤労するそうなのだが、生前の職業が死後にも反映されると決まったわけではないそうで、死んだ家族が夢枕に立ち、
「きつい肉体労働をさせられてたいへんです。土地神様にお願いして、もっと楽な職に変えてもらってください。」
と訴えた、という話があり、そのためにもまたお金が必要になるとのこと。
そういった死後の世界への働きかけなどのため、お墓にお金が用意されているという考えもあるようだ。
それにしても、死後も働かなくてはならないのか。
労働しなくてはならないこの世はアウェー、と思って暮らしてきたが、あの世も同様にアウェーであるのか。
われ三界にホームなし、とは何とも辛いお話である。
続きます。