・機械は嘘をつかない?
システム屋ならおわかりだろう。コンピュータは人を欺く。プレゼンなり、お披露目なり、ここ一番、というところで不具合をおこすのだ。
これを起こさないためには、当該システムの仕様と実装を完璧に把握し検証し、水も漏らさぬ網羅率で試験を行いバグの発生率を可能な限り下げたところで、
「次のプレゼンできちんと動作しなければハードウェアごと破壊し廃棄してくれる」という気合と威圧をもって操作するという手段をとる。
この能力が突出してしまうとデバッガの道は閉ざされることになるが。
要は言い逃れできないように相手の仕事を把握し、あとは脅したりすかしたりする、という対人スキルの用法と同じということだ。
・動物は嘘をつかないから良い?
動物を飼ったり、動物と深く付き合ったことのある人ならおわかりだろうが、動物は嘘をつく。相手をだまそうとする。獲物や天敵を欺くことは生きるうえで当然だが、そういう次元とは別に、人間をだまそうとするのである。
猫様Aに食事を出すと、さっき食べたばかりの猫様Bが走りよってきて
「私はまだ朝食をいただいておりませんぞ。」とばかりに迫ってくる。
誰かが網戸を爪とぎに使っているので見に行くと
「今、別の猫が向こうに走っていきました。」とでも言うように視線を別方向に向ける。
…そんなのお前が勝手にアフレコしているだけではないか、という指摘もあろう。だが、言い逃れのできないケースもある。
ある時、猫様の手(前足)を軽く踏んでしまったことがある。体重を乗せる前に気づいたので触れた程度だったが、驚いた私はすぐさま跪き、
「たいへん申し訳ありません、お怪我はありませんか。」
と謝罪申し上げた。すると猫様はゆっくり立ち上がると、痛そうに片方の前足を引きずりながら歩いて見せたのだ。
「嘘つけぃ!」思わず声を上げると、ばれたと気づいた猫様は口笛でも吹くように軽い足取りで歩いて行ったのだった。
有名なところではシートン動物記の「すみくり」にもあるように、動物は人間をだますのである。
動物は嘘をつかないから良い、のではなく、嘘をついても可愛いから良い、というのが本当のところである。