開明獣とは崑崙の丘にある九つの門を守る存在で、九つの人の顔を持つ虎のような獣とされる。現代では「もののけ姫」のシシ神が、「孔子暗黒伝」の開明獣に似ているという指摘がある。
「もののけ姫」ではシシ神は鹿のような風貌として描かれていたが、本家本元の開明獣は何の動物をベースとしているのだろう(徹頭徹尾架空の存在という可能性もあるが)。胴体は虎だが顔は(数は別として)人間ぽいらしい。孔子暗黒伝では人面獣身だが、獅子頭人身のヌリシンハともつながるようなストーリーだった。
開明獣と似通った存在として、「陸吾」「スウゴ」などを挙げる人もいる(いずれも山海経に記載)。開明獣、陸吾、スウゴに共通する、虎か獅子のような胴体形状と、物語に関連する地域周辺に生息する生物としてユキヒョウをベースとする指摘はたいへんに興味深い。
だが、もっと刺激的な説がある。ジャイアント・パンダ(大熊猫)が開明獣だというのだ。「開明獣」という名と孔子暗黒伝での役割から、知識を守り、伝えるべき相手にそれを伝えるというイメージのある存在が、あの無邪気で暢気なユーモラスな生き物だというギャップがたまらなく刺激的だ。
だが、四川省パンダ幼稚園の映像を見ると、多くの遊具を使って遊ぶ姿や、見知らぬ人のところにどんどん集まってちょっかいを出していく姿からは高い好奇心が感じ取れ、また(少なくとも子パンダは)かなり高い社会性を有するように見える。この生き物は実は随分賢いのではあるまいか。
子パンダはその動作一つ一つがはっきりとした意思を持っているように見える。最もそれを感じたのは、子パンダが大好きな饅頭をそれぞれに一個ずつ配ったときの様子だ。一気に貪り早々に食べ終えてしまうもの、一口ずつ大事そうに齧るもの、個性が見て取れる。そのうち、先に食べ終えた子がゆっくり食べている子の饅頭を奪い取って二つに割って無理やり自分の口に突っ込み(両頬がぱんぱん)、怒って取り返そうとする子からぷいと顔を背けるシーンでは「へへーんだ、もう食べちゃったもんねー」という吹き出しがはっきりと見えたのだった。
全くもって人間らしい振る舞いなのだが、これをして知を司るとかという話はないように思う…。