雨続きである。雨は好きだがこうも続くと生活に支障をきたしてしまう。
洗濯物は乾かないし、野菜は値上がりするし、猫様のご機嫌が悪くなってしまうではないか。
こんな時にはいつも「クラウド・バスターがあれば…」などと夢想するのだった。
クラウド・バスターとは、異端の精神分析医 ヴィルヘルム・ライヒが自ら提唱したオルゴン理論を用いて作成した気象操作マシンである。雲を大きくしたり、また消滅させたりできる機能があるという夢のマシンなのだが、機構は極めてシンプルで、並べた金属パイプの後端に金属ホースをつなぎ、そのホースの反対側を水につけておく、という構造のようだ。どこかに「オルゴン吸収体」が入るのかもしれないが、調べてみた限りでは水がオルゴン吸収体の役割を果たしているように思われる。
放射性物質によって出現した「デッドリーオルゴン」の雲を除去するためにクラウド・バスターを作成したという、作成の背景も凄まじい。この黒雲は一ヶ月も研究所の上空に居座り続け、研究所員が皆肉体的または精神的変調をきたしたというのだ…。
この逸話を知って一番最初に思ったのが「黒雲ワルジャン」(冒険ロックバットに出てくる敵役)というのはどうでもよい話だ。
ケイト・ブッシュの「クラウド・バスティング」という曲があるのだが、そのビデオクリップが秀逸である。ドナルド・サザーランド扮するヴィルヘルム・ライヒと、彼を見つめるケイト・ブッシュ本人扮するヴィルヘルムの息子ピーター・ライヒという構成で、父ライヒが逮捕されるところまでを描いている。
このビデオ・クリップにはテリー・ギリアムがかかわっているそうで(監督はジュリアン・ドイル)、出来が良いのもうなずける。
こんなに特徴的なクラウド・バスターなのだが、日本での認知度は高くないと思われる。コミックで取り扱われているのを見たのはうすね正俊著「EATER」だけである(このコミックはこんな文章を読みに来てくださる方には自信を持ってお勧めできる逸品である)。クラウド・バスターによって精気を吸い取られてしまった街では人々が無気力になり事故が多発する(しかも救急隊員もだるくて動けない)、というシーンがたまらなかった。もちろん空は雲一つない快晴でこうこうと月が照っているという「わかってる」描写が良い。
超能力というか仙術というか微妙なところだが、雲切りと呼ばれる技がある。その名の通り、空の雲を切ったり消したりするものだ。仙道ではもちろん気の力を用いて雲切り、雲消しを行うのだが、これはまんまクラウド・バスターのように思える。やはりオルゴンと気は近しいものなのだろうか。