美しい歩き方としては、前に出す足も伸ばすべし、とする説もあるが、これだと着地時のショックが膝に来るので止めた方が無難な様に(私のような素人は)思う。前足はピンと伸ばさず少し余裕のある状態で接地する説を採りたい。
「美しい歩き方」、または「正しい歩き方」で調べてみると、前に出す足の接地のさせ方に複数の説があることがわかる。かかとから接地し、体重を土踏まずの外側を通して拇指球(親指の付け根のふくらんだ所)に重心を持ってきたところで地面を蹴る、という説が一つある。また、かかと・親指とその付け根・小指とその付け根を同時に接地させるという説も存在する。
実際やってみると、かかとから順々に重量を移動させる方法は自然にできる(大抵いつもやっている)が、かかと・親指とその付け根・小指とその付け根を同時に接地させるという歩き方は難しい。というかこれ八卦掌のショウ泥歩ではないだろうか。平起平落という、足裏を地面と並行に上げ-前に出し-足裏を地面と並行に接地させる歩法の少なくとも後半部分をやっていることになる。これで街なかを歩くのは結構たいへん…と思っていたのだが、もしかしたら、と一つの可能性に思い当たった。ハイヒールを履いている状態ならば自然に成立するのではないだろうか。
歩き方に興味を持つようになってから、あまり格好が良くない様に見える歩き方をしている人に気づくことが多くなった。そしてそれはハイヒールや、底の厚い靴を履いている人に多く見られるのだった。後ろ足はピンとは伸びておらず前足はさらに曲がっていて、結果として歩幅が狭くよちよち歩きに近い印象になる。なので、ハイヒールのような履物は靴という機能としてどうなのか、と疑問に思っていたのだった。
しかし、就職とともに上京し、東京の雑踏の中をハイヒールで軽やかに移動する(足は前後ともに伸びているうえに足音もソフト)女性たちを見て、ああ、これが正解なのであって故郷では正しくこの靴を使いこなせる者が(私に見える範囲には)いなかっただけなのだと思い知ることになったのだ。
あえて不自由な状態に体を置くことで、全身の調和が取れた、より精密な動きができるようになるという武術の極意のようなものがここにもあるのかもしれない。