渋谷巨大暗渠化構想

渋谷の再開発地域を目にした。駅周辺の整備から駅そのものの改築、そしてまた背の高いビルが何棟か建つらしい。ヒカリエが建った時に思ったのだが、これはいよいよ半村良の小説「2030年東北自治区」に出てきた、渋谷に蓋をして巨大地下都市にしてしまおう計画が始まったのではないだろうか。

「2030年東北自治区」の世界では渋谷川によって削られてできた低地に対し「青山通りに続く宮益坂と、反対側の道玄坂の間」に蓋をして水平にしてしまっている。地下はそれまで通り、地上はまた新しい都市として機能しているという設定である。
渋谷川だけではなく現在の渋谷全体を暗渠化してしまおうという発想だ。「蓋」を支える柱になるのは高層ビル群。これが商業施設でもいありまた、地上と地下をつなぐ通路ともなっている。

そんな設定なので、高層ビルができるたびに「あれは柱となるのだろうか」と余計なことを考えてしまう。
実際のところ、渋谷を超巨大地下都市にする場合には、強力な排水機構が必須になると思われる。現在でもJR渋谷駅の高架下や神南の道路は大雨の際に水没、冠水しかねない状態になっているので、対策は大変だろう。

一遍の小説に数々の奇想を詰め込むことで定評のある半村良だけに、この小説にも山のようにアイデアが盛り込まれている。どうして東北が自治区として独立することになったのか。独立を支える経済基盤は何か。いずれにも何か納得させられてしまう理由がちゃんとあり、嘘部の本領発揮といったところであろう。

動物たちの防衛変異(ディフェンシブ・ミューテーション)によって肉が一切食べられなくなってしまった世界という設定でもぐっと来るが、さらに、その世界で「しゃぶしゃぶ屋」を営む友人を持つ主人公、という描写がたまらない。一瞬読み手を混乱させておいて、きちんと回収するばかりではなく、それが東北自治区の秘密にもつながっていく。
こういう「嘘」にだまされたくて私は本を読むのだ。

だが、どうして「2030年東北自治区」はのちに「人間狩り」というタイトルに改題されたのだろう?ここだけは謎だ。