現在では、パワードスーツは体を壊しやすい重労働をサポートし人の健康を維持したり、怪我などによる運動障害をサポートすることによって寝たきりになる可能性を減少させたりと、日常生活の中で有用性の高いガジェットである。
だがまずは、小説などでのパワードスーツについて見ていこう。
「宇宙の戦士」のパワードスーツに関しては、あの、スタジオぬえによる完璧なイラストレーションによる印象が完全に脳内を席巻しており、他の形態が思い浮かべられない。挿絵で手榴弾を投げているシーンがあったのだが、それがアンダースローで投擲されているため、パワードスーツはオーバースローで物を投げられない設定だと私は思い込んでいる。文章でその設定について記述がされていたかは記憶していない。
挿絵のパワードスーツを見ると、確かにこのままではオーバースローは不可能そうだ(バックパックや肩上の装備を外すことができればあるいは…)。
「宇宙の戦士」へのアンチテーゼともされる「終わりなき戦い」(ジョー・ホールドマン著 1974年)のパワードスーツは扱いに注意が必要である。放熱フィンは転んだだけで曲がってしまい、放熱フィンが正常に機能しないと中の人間が熱で死ぬ。筋力を対数的に増強させるが、フルパワーで何かを握り締めたりすると手袋部分が壊れ、機密が破れて中の人間が死ぬ。とまあこういう具合にことあるごとに中の人を殺そうとするパワードスーツなのである。後に改良され、機密が破れた場合、破損部に最も近い胴体側の関節部で切断を行い(当然中身ごと)機密を保つ。中の人間には麻酔と多幸剤を注入して救助が来るまで眠らせておくほどには人道的になる。
同じホールドマン著の「終わりなき平和」に出てくる遠隔歩兵戦闘体「ソルジャーボーイ」はパワードスーツではない。
遠く離れた「安全な」場所からリモートで操縦する、「人型ドローン」のようなものだ。操縦のためには頭蓋内(首の後ろあたり)にジャック埋め込み手術を行う必要があるけど。しかもその手術は確率的に失敗するのだけれども。それでも手術は行われ続ける。失敗してもそれは戦死ではないのだから。社会が要請する「味方側から戦死者の出ない戦争」を実現化する唯一の手段なのだから。
このように小説では戦闘用・軍用パワードスーツが活躍しているが、現状ではまだ軍用パワードスーツは実現にはいたっていない。人型ドローン(というか歩兵型ドローン)を開発しているという噂も聞かないのだが、需要としては軍用パワードスーツよりも歩兵型ドローンの方がありそうな気はする。
軍用ではない、日常生活サポート用のパワードスーツには、もっと広範な使用法があるのではないだろうか。例えば農作業用パワードスーツは既に存在し、実用化されているようなのだが、パワーアシストだけでなくセンサー類と記録装置を搭載してはどうだろうか。ベテランの農業従事者が、何を見て判断しどう行動するか、ノウハウを動作記録付きで保存してしまうのだ。新人へのノウハウ伝授にも役立つデータとなることは間違いないだろう。そのデータは人にだけ分け与えられるものではなく、データを基に構築された農業用ロボットを導入することができれば後継者不足に悩む農家への福音となったりはしないだろうか。
何も農業だけに限らず、工芸や武術といった失伝が懸念される分野のものは全部データ化するなどの対策を採りたいものだ。さらに言うとデータ収集に使用したパワードスーツを、逆に装着者に対して情報を伝えるようなガジェットにできると好都合なのだが。
武術の本を読んでも動画を見ても、細かい動きや体の各部位の連携が分からないなんてことはしょっちゅうで、そんな時、「体が勝手に動く」系の教育方法が心底ほしくなるのだ。この方法が現実化すれば、編み物にも料理にも楽器の演奏にも応用できるはずだ。
とりあえずデータ収集だけでも早く。失伝していく技術の保護は、絶滅危惧種の保護並みに重要なのではないだろうか。