「モノと図像から探る 妖怪怪異の東西」その1

先月のことになるが、
天理大学考古学・民俗学フォーラム
「モノと図像から探る 妖怪怪異の東西」
を聴講してきたので、ここにまとめておく。

1.狙う妖怪・守る身体 安井眞奈美教授

かつて病気は悪霊・妖怪の仕業と考えられた。では妖怪たちは体のどこを狙うのだろうか、
という視点から、人間が外界をどう把握してきたか(=世界観)を解明する。

妖怪が狙うのは、普段閉じている、隠されている部分(股、脇)や、開口部(目、鼻、耳、口、性器、尻)が多いという話は普通に納得のいくものだったが、「背中」という部位も妖怪の的になるというのは知らなかった。理由としては「自分からは見えない部位だから」というのは理解できるのだが、精神的に病み気味の人が、「背中から魂が抜け出そうな気がする」と表現する感覚とも関係がありそうな気がする。

また、「人間の身体をミクロコスモスと捉える」というのはなじみのある考え方だが、では「第三眼を持つモノ」のような存在が描かれているとこれは別の宇宙を表現したものになるという解釈につながるというのはたいへんに興味深かった。第三眼を開くとこれまでとは違った世界が見える、というのはそれ系の本やサイトでよく目にする文言だけれど…。
目目連や百々目鬼となると我々の宇宙とは随分異なった宇宙ということになるのだろうか。

人間の身体を使用した(非物理)攻撃の話では、「目」という部位の持つ攻撃力は今でも用いられていることがわかった。東京では「誰か見てるぞ」の文言と共に歌舞伎の隈取を施した「目」が描かれたステッカーをよく見るが、これが好例だろう。
ただ、「目」ははっきりとした攻撃になるので、見た人が不快感を覚えることも多い。だが、赤ん坊の「目」は見た人に不快の念を起こさせないため、赤ん坊の写真を使ったマイルドな「お願いポスター」のような使用方法もあると聞き、非常に面白い。いろいろ応用できそうに思う。

また、武器としての性器に関しては、男性器はあるのだろうなと思っていた(女性器では、あるとしてもマノフィカのような比喩的表現だろうと)が、女性器そのものを使った呪的、文化的攻撃もあると聞き驚き。聞いた範囲では対妖怪というより対人用の攻撃が多かったのも興味深かった。対人攻撃としてこれを用いた例はカテリーナ・スフォルツァしか知らなかったので。

他にスライドで提示された「レメリン小宇宙図譜」(第2版1667年)は飛び出す絵本というか仕掛け絵本的に内臓パーツが取り外せるギミック付で感動したが、その後の「日本では『解体新書』を基に普通の農民が人体の立体解剖模型を作っていた」という説明で感動がされに上書かれる。ああ、そういう民族ですよね、日本人って。


後の質疑応答では以下のようなやり取りがあった。

Q.妖怪が狙う部位として「爪」があるがどうして?

A.髪と同様、身体から離れた瞬間に「穢れ」となるし、元カラダということで呪いの媒体にもなる。あと、爪と指の間って痛いし。

痛いしというのが納得しやすいです。

Q.「目」の持つ力は古くからあるようですが。

A.シュメール文明の土器に目の模様があり、また日本では銅鐸に魔除けの「目」があります。

Q.武器としての性器について

A.ミクロネシアでは喧嘩の際に威嚇として用いられる。ポリネシアでは刺青にし、表情と合わせて威嚇に使用する。イタリアの大聖堂にあるアンドロギュノスの像は魔除けの意味合いを持つのかもしれない。