入眠時幻覚の闘い


昨夜も就寝は遅かった。にもかかわらずなかなか眠りにつけない。眠りにつくのだけは得意な私には珍しいことだが、仕事が厳しい時にはままあることでもある。もっともっと厳しくなると機械的に眠りにつけるのだけれど。そして機械のように目覚め、機械のように働くのだけれど。

そんなことより、昨夜の話である。

眠りにつくまでの時間のすごし方は幾つかパターン化してあるが、昨夜は「ぼんやりと瞼の裏をながめる」というパターンにしてみた。仙道でも眠れないときに使う手法として紹介されている。
神経が昂ぶった状態でこれを続けていたら、変なスイッチが入ってしまったらしく、幻覚を見た。
ふと気がつくと、瞼の裏にカラフルな直方体が数多く浮かんでいたのである。「眼前に」ではなく「瞼の裏に」という表現なのは、瞼を通して常夜灯の光がぼんやり見えているからである。
瞬間的に「ああ、入眠時幻覚だな。」と思った。体は動く、金縛りではない。音も聞こえる、遠くの自動車の音だ。左目が少し開きかけているようで、視界の下部がやや明るい。
と、思った瞬間に直方体の群れがちらつき始めた。このちらつき感には覚えがある。視野闘争が起きているときのちらつきだ。

だが、ちょっと待ってほしい。幻覚に視野闘争は起こりうるのか?実際に網膜に映っている光景ではなく、脳内で見えたと思っているだけの光景に?
これは、視野闘争が起きているというところまで含めて幻覚なのだろうか。
あるいは幻覚の背景にある実際の視覚情報で視野闘争が起きていてその上に幻覚が見えているだけなのか。
それとも幻覚は左右両眼からのそれぞれの視覚情報として構成されていて、現実の視覚で発生するものと同じ視野闘争が幻覚でも発生するのか。

などと考えているうちに幻覚は消えてしまったが、取り残された私はさらに眠れなくなったのだった。